研究概要 |
マクロレベルの電気的特性に加え,走査型複合プローブ顕微鏡(SPM)によりナノレベルの電気的特性を測定・評価することにより,強誘電体メモリーの実用化における最大の問題点である各種の劣化現象を解明・克服することを目的として研究を推進するとともに研究成果の総括を行った。以下に本研究で得られた知見をまとめる。 (1) AFMによる電流同時測定において結晶粒界を流れるリーク電流が明確に観察された試料とほとんど観察されなかった試料の結晶粒,結晶粒界の構造観察・組成分析をTEM,EDXを用いて行った。リーク電流が多い試料では結晶粒界及び下部電極界面近傍の組成が正規組成から大きくずれていることがわかった。一方,リーク電流の少ない試料では柱状の結晶粒が密に詰まっており,結晶粒内部・結晶粒界の組成はほぼ正規組成であった。これらのことから,結晶粒界及び下部電極界面における異相がリーク電流の増大を招いていることが明らかになった。 (2) MOCVD原料の純度がPZT薄膜の電気的特性に及ぼす影響について調べた。その結果,MOCVD原料を高純度化することでPZT薄膜の劣化現象が抑制できることがわかった。 (3) SPMによる電気的特性の測定及び上記(1),(2)に示した研究成果から結晶粒界の排除及びMOCVD原料の高純度化により特性の向上が期待できるという知見が得られた。そこで高純度MOCVD原料を用いて単結晶PZT薄膜の作製を行い,多結晶PZT薄膜との比較のもとにその電気的特性の膜厚依存性を評価し,結晶粒界の影響について調べるとともに単結晶化の有効性を検証した。その結果,結晶粒界を持たない単結晶PZT薄膜は多結晶膜に比べその電気的特性の膜厚依存性が小さく,分極反転の繰り返しに伴う劣化の度合いも小さかった。したがって強誘電体薄膜の劣化現象の克服には単結晶化が非常に有効であると結論できた。
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