研究概要 |
1. 血糖と唾液糖の相関 健常者11名に経口糖負荷試験(75g OGTT)を,糖尿病患者15名に経口糖負荷試験あるいは食事負荷試験を実施し,血糖値と唾液糖値の経時変化から両糖値の相関を調べたところ,健常者と糖尿病患者の唾液糖値の絶対値には約7倍の明確な差があることが判明し,唾液中へのぶどう糖の移行は糖尿病の影響を受け、唾液糖値は糖尿病判定の指標として有用な方法と成り得る可能性があることが示唆された。 また,ヒト全体に共通する両糖値の相関は認められなかったが,健常者のみならず糖尿病患者においても同一被検者における個人相関を示す結果として負荷試験1日の相関係数は0.9以上,3日間の累積相関係数では0.76が得られた。 2. 唾液採取手技の確立 主の顎・舌下腺液からなる混合唾液の採取方法として,以下の手技を考察した。まず,空腹時唾液および糖負荷後の唾液の採取に先立ち,歯磨きと充分の濯ぎを行わせて口腔内の残留物を除き,口腔内水分は歯科用綿で拭き取る。唾液は,舌下小丘上に歯科用綿(φ10×15[mm])2個を毎回約3分間挿入して採取する。この歯科用綿を容量5[ml]のシリンジ(テルモ(株),γ線滅菌済)で圧縮して唾液を採取する。この採取した唾液は,分画分子量5000(孔径5[nm])の加圧式の限外濾過器(日本ミリポア(株))で含有する細菌や酵素を6[℃]で30分間濾過される。 その結果,唾液糖値は血糖値の1/50〜1/100の低濃度を示し,OGTTで服用させた75gぶどう糖溶液の濃度33.3[g/dl]と比べて4桁以上小さい値が示された。すなわち,唾液分析に用いる検体量が50[μl]の場合,75gぶどう糖溶液の混入で1[mg/dl]の唾液糖値が示されたと仮定しても溶液の混入量は1.5[ml]以下であり,唾液採取手技がかなり良好であったと考えられた。 3. 唾液分析システム 過酸化水素電極式グルコースセンサを用いてフローインジョクション式唾液分析システムを試作した。過酸化水素電極式グルコースセンサでは,酸素電極式酵素センサに比べてリン酸バッファ中の溶媒酸素濃度の影響を小さくすることができるという利点があり,分析精度を一桁向上できた。唾液中に含まれる化学物質の定量,及びリン酸バッファのpHが測定精度へ及ぼす影響を実験的に明らかにし,検体量50[μl]が得られればぶどう糖濃度0.1〜10.0[mg/dl]の範囲を変動係数6%以下で測定できた。 更に,過酸化水素電極グルコースセンサを用いた本システムでヒト5名の唾液糖の経時変化を測定したところ,唾液糖値は相関係数0.76で血糖値と相関を有しており,本システムは非侵襲式の血糖測定器として用いうる可能性がある事も示唆された。
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