研究概要 |
近年,ロボットのコントローラあるいは形態をも進化的手法により,ボトムアップ的に構築することを目指す進化ロボティクスと呼ばれる分野が注目を集めている.進化ロボティクスは,設計者がロボットの身体性や,ロボットとその環境との間に存在する相互作用を陽に意識しなくとも,コントローラの構築に反映されるため,強力な設計手法となりうる.また,コントローラとしてニューラルネットワークを用いた場合,ニューラルネットワークはセンサ入力とアクチュエータ出力を直接結びつける極めて低次レベルのコントローラの記述法であり,このため逆に高い創発性が期待できるという優れた特徴を有している. ところで,進化過程には通常多大の計算時間を必要とするため,進化過程は必然的にシミュレータ上で行う.しかしながら,シミュレーション環境と実環境は似て非なるものであり(摩擦やノイズ,センサの個体差などの不確定要素が多数実世界には存在する),また進化は通常経験させた環境に特化する傾向にあるため,進化させた個体が実環境ではしばしば適切に機能しないという問題が指摘されている. そこで,本研究では,「シミュレーションから実環境へのシームレスな移行」の実現を目的とし,「コントローラの構築において,何を進化の対象とするか?」という根元的な問題から考察を行った.その結果,行動主体(ロボット)と環境との間に存在するフィードバックループの調節の仕方を進化の対象とすることにより,この問題が大幅に緩和されることがわかった.ここで,状況に応じてフィードバックルーブを調節するということは,シナプス荷重に全情報を埋め込んでいた従来の一義的なモデルと異なり,ニューラルコントローラの構造が多義的・多型的になることを意味している.そこで,この機能を実現するために,実際の生物で観測される,神経修飾物質(ニューロモデュレータ)による神経回路の動的再編成現象に着目し,モデルを構築した. 提案する手法の妥当性を検証するために,ペグを光源までロボットが押すというタスクを例に取り,シミュレーションと実機を用いた実験を通して検証した.その結果,シナプス荷重を進化の対象とする従来手法は,シミュレーションでは高い評価を得ていた個体が,実環境に移行するとその機能が破綻した.一方,提案する手法では,実環境においてもシミュレーションと同様の機能が発現することが確認できた. 本手法は,進化と学習というこれまで乖離して扱われていた概念を有機的に融合することができ,かつ環境変動に対して,高い頑健性を有することが確認された.このため,学術的のみならず産業的にも極めて高い価値を有するものと確信する.
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