研究概要 |
土中の水分含有率の推定は,マイクロ波に対する土の散乱係数が水分含有率により大きく変化することを利用して行われる.この散乱係数は土の等価誘電率に密接に関係している.多重散乱理論を基にした等価誘電率算定法は,これまでいくつか提案されている.その中で,九州大学で提案された等価誘電率算定法を,より実際の媒質に対して適用できるように拡張し,他の手法と比較検討を行った. 1. 層状散乱体が分布する媒質の等価誘電率 土の水分が少ない場合,水は土の粒子を覆うように存在し層状媒質と見なされる.この散乱体がランダムに分布する媒質の等価誘電率を各算定法により算定した.水は高誘電率を有するため散乱効果が大きく,各算定法による等価誘電率に大きな違いが生じた. 2. 多種類の散乱体が分布する媒質の等価誘電率 実際の土は,空気,土,束縛水,自由水の混合物と考えられる.従って多種類の散乱体が分布する媒質にも適用できるように等価誘電率算定法を拡張した.この結果1.の場合と同様,高誘電率散乱体に対して,各算定法間に大きな差が生じた. 3. 一般の散乱体が分布する媒質の等価誘電率 九州大学で提案された等価誘電率算定法をより一般的な散乱体に対して適用できるように,bianisotropic散乱体に対する多重散乱理論を定式化し,等価誘電率算定式を提案した.これまで,bianisotropic散乱体に対する多重散乱理論に基づく等価誘電率算定法は,提案されておらず本算定法は注目すべきものと考えられる. 本算定法による等価誘電率を他の算定法の結果と吟味した結果,本算定法が物理的に妥当である結果を得た.しかし,水分量増加とともに生じる束縛水から自由水への状態遷移に対応した算定法はまだ提案できていない.今後は実験結果等を考慮して,より実際に即したモデルに対する算定式を提案する予定である.
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