研究概要 |
生体組織に近赤外光を照射して,組織内の酸素代謝分布を測定する光CTの試みがなされている.しかし,生体組織は非均質性を有する散乱体であるため,近赤外先は頭皮,頭蓋骨,脳脊髄液,脳などの異なった組織で散乱を受けながら伝播する.とくに,散乱,吸収の小さい脳脊髄液が近赤外先の伝播に大きく影響するため,検出される光が脳脊髄液近傍を伝播することは,平成10年度の本研究から明らかにされている.このことは,光の強度情報のみを利用した場合,酸素代謝の測定が可能なのは脳脊髄液近傍の脳の浅い部位に限定されてしまうことを意味している.平成11年度は,パルス光を用いた時間分解計測法によって,脳深部の情報を検出する可能性について検討をおこなった.モデルは,光伝播に最も影響を与える脳脊髄液を模擬した透明層を散乱体ではさんだ3層モデルとし,新生児と成人の脳を模擬した2つのモデルについて光伝播をシミュレーションした.時間分解計測をおこなった場合,早い時刻に検出された光は,最短距離である光源と検出器を結んだ直線上ではなく,脳脊髄液の近傍を伝播していることがわかった.そして,新生児のモデルでは,検出時刻が遅くなるにつれて,測定領域は脳深部へと分布が広がっていた.このことから,新生児の頭部を対象とした時間分解計測では,早い時刻の検出光から脳表面の酸素代謝,遅い時刻の検出光から脳深部の酸素代謝をそれぞれ分離して測定することが可能であることが示唆された.一方,成人モデルでは,遅い時刻に検出器に到達する光でも脳深部を伝播している割合は小さく,時間分解法を用いても主として測定されるのは脳の皮質近傍の酸素代謝であることがわかった.これらの結果は生体模擬モデルを用いた実験によっても検証された.
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