研究概要 |
本研究では、産業直接排出物規制を対象に,規制の実効性・有効性とそれを妨げる要因をモデル分析を通じて理論的に明らかした.より詳細には,規制主体及び被規制主体間の規制執行・規制遵守行動を,不確実情報下での各主体の戦略的な相互的行動を明示的にモデル化できる非協力ゲーム理論を用いて記述し,ゲームの均衡解分析を通じて,特に,1)コンフリクト下にある規制主体及び被規制主体が協力するインセンティブを持つために規制の整えるべき条件の導出,2)北米および日本の環境直接規制システムの構造的差異とその実効性の比較,3)環境責任制度の違いが規制(特に自己申告制度)の効率性に与える影響,を軸として環境規制の実効性に関する政策分析を行った.1)に関しては,環境規制を執行する政府の執行努力と被規制主体である事業主間の規制に関する規制強化・規制遵守の各意思決定を非協力ゲームモデルにより表現し,本モデルの均衡解分析により規制の不効率性とそれを克服するために政府が整えるべき条件を明らかにした.さらに,被規制主体のの規制遵守行動を誘導できる協力的規制方策「レビュー規制」を提案し,その実効性を理論的に明らかにした.2)に関しては,日本および北米における規制違反者に対する規制・法執行プロセスを調査し,それぞれのプロセスを展開型ゲームとして表現した.このモデルの均衡解の比較分析を行い,各システムが互いに有効となる条件を明らかにした.とくに,規制者と被規制者の関係が長期的に続くような状況においては日本における規制システムがより有効であることが明らかとなった.最後に,3)に関しては,被規制主体に環境へ排出した汚染物の量を測定記録義務に基づいて自己測定しかつ規制主体に自己申告するような規制システムを考え,近年我が国で水質汚濁防止法や大気汚染防止法をはじめ環境法一般に見られるようになった直罰制度の有無と厳格責任制度であるか否かが自己申告制度の実効性に与える影響についてモデル分析を行い,自己申告制度が有効なシステムとして機能するための条件を明らかにした.
|