研究概要 |
脱窒細菌を固定した生物膜電極と炭素電極をそれぞれ陰極及び陽極とした完全混合型生物膜電極反応槽を作製し,通電条件,滞留時間および添加有機物濃度(酢酸使用)を変化させながら,金属表面処理排水の硝酸イオン濃度(200mg-N/L)とpH(=3)を模擬した人工排水で連続処理実験を行った.添加酢酸及び通電に伴う陰極電解生成水素を同時的に利用した脱窒反応が進行するとともに,添加酢酸量の低減と通電量の増大により,処理水中に残留酢酸のない効果的な脱窒操作が滞留時間数〜10時間程度でも可能であることが示された.処理水はほぼ中性であり,硝酸イオン除去と中和の同時的処理が可能であることが示された.主な成分の物質収支,化学量論および化学平衡関係を基に中和機構の理論的検討を行ったところ,本系では,脱窒率15〜20%で処理水pHが6を越えるが,陽極の電気化学的酸化により生成する二酸化炭素の溶存とその緩衝効果で,脱窒率が上昇してもpHは大きくアルカリ側ヘシフトせず,高脱窒率でも6.5〜7.5程度に維持され,脱窒細菌の好pH環境維持の一因ともなっていることが明らかとなった.段階的に希釈率を下げた実排水による連続処理実験から,被処理水の共存成分のうち,銅イオンが数10mg/L以上共存すると,脱窒細菌活性が阻害されることがわかった.但し,本法で槽内銅イオンは,陰極での水素生成と併発して進行する銅の電解還元により数mg/L程度まで低下していた.従って,本系で電極配置や通電法の工夫で,被処理水の銅イオン濃度が高くても,脱窒細菌活性に影響の少ない程度まで銅イオンを除去しながら脱窒・中和を同時的に行うことも可能であることが推察された.なお,陰極生物膜における脱窒に関し,理論的な反応モデルを構築するとともに数値計算により総括反応解析を行い,実験値と比較したところモデルの妥当性が認められ,操作条件と脱窒速度の関係の推定が可能となった.
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