研究概要 |
建物の熱特性の同定手法の開発ならびに検証を行うことが本研究の目的である.昨年度は,事務室(単室)を対象に,内部発熱のパターンとしてM系列発熱を与え,その際の室温変動から設計値がどの程度の精度で同定できるかについてシミュレーションによる検討を行った.今年度は,住宅(多数室)を対象に実験を行い,その結果をもとに同定を行った.多数室の場合は単室の場合と異なり,発熱パターンを外気条件とできるだけ無相関にするだけではなく,発熱パターン間の相関も低く押さえることを考えなければならない.すなわち,相互相関が小さい系列群が必要となる.このような系列としてはGold系列やKasami系列などが提案されているが,本研究では,Kasami系列の小集合を用いることとした.この系列群は含まれる系列数がGold系列などと比較して少ないが,周期が同じ場合最も相互相関が小さい系列群となる.今回は住宅全体を8ブロックにわけ,周期63(系列数は8)のものを用いた.なお多数室実験に先立ち,住宅全体を単室とみてM系列発熱を与える実験も行ったが,当初から予想されていたように住宅全体の温度の一様性を確保することは困難であった.この場合平均室温の算定法が問題となるが,室容積重み平均で算出した室温をもとに同定を行ったところ,同定に用いる系列を変えても,熱損失係数,日射取得係数,熱容量などの同定パラメータは比較的安定した値となり,室温のRMSEも0.5度程度となった.多数室実験に関しては,住宅全体でみた場合のパラメータに関しては比較的良好に同定できたが,室間の熱移動に関するパラメータに関しては,精度が悪かった.発熱量(各ブロック1200Wもしくは600W)が小さかったことが一番の理由であるが,現場同定では電力の確保が容易ではないためあまり発熱量を大きくするわけにもいかず,今後の検討課題として残された.
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