研究概要 |
有機化合物の結晶には複数の構造が存在し,その構造によって,例えば体内に投与した際の吸収速度(薬理効果)に差が生ずる等の問題がある。安定な構造を有する結晶を作成することは,自然の摂理から考えて容易であるが,不安定な構造体を作ることは一般的に困難である。不(準)安定結晶はその異常な溶解性などの点から,医薬品として非常に魅力ある性質を有しているので,本研究では,その作成法について検討した。 まず,種々の晶析環境(溶媒,温度,過飽和度)下において有機物(グルタミン酸,メチオニン,パロキセチン)の結晶を作成し,不安定結晶と安定結晶の構造および析出条件を調べた。例えばパロキセチンの場合,結晶化溶媒中に少量の水を混入させるだけで,安定な水和物結晶を生成することができたが,水フリーの条件では不安定な有機溶媒和物結晶となってしまった。後者の結晶の不安定性は結晶内に形成する巨大な空隙に由来することが分かった。パロキセチンの場合は溶媒の選定によって安定,不安定結晶の作り分けが可能であるが,他の系では速度差を利用した制御が有効であることもわかった。その例がグルタミン酸で,室温近傍で晶析した場合,グルタミン酸の安定晶と準安定晶の両方が析出してしまうが,わずかな差ながら準安定結晶が先に析出することがわかっている。このタイムラグを利用して,迅速な晶析操作(急冷晶析)を行うことによって準安定晶を選択的に析出させる方法について提案した。 実際の工業装置では,激しい流動下で結晶を析出させているが,そのような過酷な条件下において操作することによって生ずる問題(構造欠陥および2次核発生)についても検討した。
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