研究概要 |
ペプチドの酵素合成反応ではアミノ酸を基質として用いるため,カルボキシル成分となる基質の負電荷とアミン成分となる基質の正電荷の間で,これらイオン対の塩が形成することがこれまでの研究で分かってきている。ここでとりあげている人工甘味料アスパルテームの前駆体の合成反応系では,カルボキシル基質に2つのカルボキシル基,アミン基質に1つのアミノ基,生成物に1つのカルボキシル基があり,さらに基質と生成物はフェニル基を有するため疎水的なインターラクションも存在する。本研究では,晶析,抽出,反応のそれぞれの系において,そのようなインターラクションにより形成される塩などの複合体の影響を考慮し,より広範囲な濃度条件下における平衡式・速度式を提出することを目的としている。 本年度は,生成物であるZ-アスパルテームとアミン基質であるL-フェニルアラニンメチルエステルの2成分系での複合体形成を考慮した溶解度平衡,抽出平衡の解析をもとに酵素反応系に及ぼす複合体形成の影響について検討を行った。カルボキシル基質であるZ-アスパラギン酸の濃度に対しアミン基質濃度が著しく高い系においては,みかけの反応平衡定数の低下が認められ,カルボキシル基質濃度の上昇に伴ない,反応速度が低下するという結果が得られた。通常は,基質阻害以外にはこのような現象はみられないが,両基質濃度を変化させた広範な条件で得られた結果は,基質阻害では説明することが困難であった。前年度までに得られた結果を基に,イオン対の複合体形成を考慮したモデルに基づいて有効基質濃度を推算した結果,みかけの平衡定数の変化を良好に説明することができた。また反応速度に関しては,これまでに提出した完全可逆Theore11-Chance機構に基づく反応速度式が適用可能であることが明らかとなり,これらの現象がイオン対形成による有効濃度の低下に伴うものであると考えられた。
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