研究概要 |
前年度の結果を踏まえ,β-サイアロン粉末の高温(1000-1300℃)における酸素と,水蒸気が雰囲気に加わった時の酸化機構について詳細に検討した.実験は,酸化による重量変化の測定,試料の微細構造の観察,同位体置換した水を用いた酸化機構の検討の3点を中心に行った.雰囲気はAr-O_2-H_2Oを80-20-0kPaまたは70-20-10kPaに設定した.β-サイアロンは窒化珪素と比較し,酸化は速く1200℃においては約5倍であり,酸化反応の活性化エネルギーは若干小さく,酸化されやすい傾向が見られた.電子顕微鏡観察から,酸化によって粉末粒子の表面に生成する酸化相は,窒化珪素では非晶質のSiO_2の均一な相であるが,β-サイアロンではナノメータサイズの針状ムライトの粒子が非晶質SiO_2中に分散した微細構造をもつことが示された.よって酸化相にムライトが含まれると,酸化剤が酸化相を透過しやすく,速く酸化されると考えられる.次に水蒸気が酸化挙動に与える影響を検討するため,水蒸気分正を制御した雰囲気でβ-サイアロンの酸化をさせた.酸化は速く進み,3〜4倍速くなった.酸化機構,生成相,酸化相の微細構造を水蒸気を含まない雰囲気で酸化させた試料と比較したが,大きな違いは認められなかった.また水蒸気分圧と酸化速度との関係は,水蒸気分圧と水蒸気の酸化相への溶解度の関係に類似していた.この結果,水蒸気が酸素に比べより多く酸化相に溶解し,内部のβ-サイアロンまで到達して酸化させ,酸化の速度が速くなると推測された.水蒸気がβ-サイアロンを酸化させていることを確認するため,酸素を同位体置換した水を用いてサイアロン粉末を酸化させ,酸素核のMAS NMRを測定した.この結果,酸化によって水の酸素が取込まれ,最終的に酸化生成相であるムライトとSiO_2に取込まれていることが明らかとなった.
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