研究概要 |
エイズの原因となるHIVプロテアーゼに対しフェニルアラニン誘導体が効果的に複合し、阻害剤として有効であり、それらをコアとして有する種々のプロテアーゼ阻害剤が開発されている。本研究では、これらに共通する複合活性中心部位を簡便にかつ光学活性体として合成し、新規HIVプロテアーゼ阻害剤の創製に利用できる新たな手法の開発を目的とする。 分子内にエナミドおよびβ-ケトエステルを有するγ,δ-不飽和-β-ケト酸のアルケンとケトンをそれぞれキラル配位子の共存下ロジウムおよびルテニウム触媒を用い、2種の不斉水素化を独立に行い、HIVプロテアーゼ阻害剤のコア部位として重要であるスタチン型化合物のキラル合成を試みた。その結果、[Rh(COD)(S)-BINAP]^+ClO_4^-,RuBr_2[(S)-BINAP]触媒共存下、水素圧10気圧ではRh触媒によるアルケンの不斉水素化が、続く水素圧90気圧ではRu触媒によるケトンの不斉水素化が独立に進行し、(3R,4R)-phenylstatineを光学的に純粋に得ることに成功した。また[Rh(COD)(S,S)-DIOP]^+ClO_4^-,RuBr_2[(S)-BINAP]の組み合わせではそのジアステレオマーである(3R,4S)-体を選択的に与えることを見いだした。異なる触媒、異なる配位子の共存下でも配位子交換なくそれぞれの触媒能を発揮できるたいへん珍しい例である。さらにベンゼン置換体においても本手法が利用できることを明らかにし、1つの共通中間体がら阻害剤のコア部位(フェニルスタチン誘導体)をワンポットで立体選択的に、かつ鏡像体として供給できる方法を開発した。現在さらに種々の誘導体を簡便に合成できるよう固相合成法への応用を検討中である。これらの知見により、本手法をスタチン化合物群(ライブラリー)の新規合成法として期待している。
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