研究概要 |
本研究の目的は、溶液中で自発的に組織構造を形成するリオトロピック液晶ポリマーに刺激応答性部位を導入し、ある特定の刺激に対する組織構造の変化を応答として取り出せるような新規な系を構築することである。まずナイロン6,6を還元することにより主鎖骨格中にイミノ基を有するポリ(イミノヘキサメチレン)を合成した。一方、刺激応答性分子として環の内側を向いたカルボキシル基を有するクラウンエーテル誘導体である2-カルボキシ-1,3-フェニレン-m-フェニレン-26-クラウン-8を高度希釈法による環化によって合成した。これらをCHCl_3中で混合すると均一な溶液となったが、この溶液をEt_2O中に滴下させたところ白色沈殿が得られた。この沈殿の^1HNMR測定を行ったところ、ポリマーの繰り返し単位とクラウン化合物の比が1.6の混合物であることがわかった。またDSC測定により、この混合物のガラス転移点は51℃であった。一方、ポリマー単独、およびポリマーとクラウン化合物を1.6:1.0のモル比で機械的に混合したサンプルのガラス転移点はともに30℃付近であった。以上の結果から、ポリ(イミノヘキサメチレン)とクラウン化合物はCHCl_3中では、クラウンエーテルの環の中をポリマーが貫いたような構造、すなわちポリロタキサン構造を有しているものと考えられる。ポリマーのイミノ基とクラウン化合物のカルボキシル基の間で分子間水素結合が形成され、ポリロタキサンのような組織構造が自発的に形成されたものと考えられる。この分子複合体においては、分子間水素結合部位およびクラウンエーテルの環が刺激応答部位であり、それぞれpHおよび陽イオンに対して応答可能である。今後は、ポリロタキサンの周囲の環境(pHやある特定の陽イオン濃度)を変化させることにより、ポリロタキサンの可逆的な構造変化を測定することを試みる予定である。
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