研究概要 |
C_<60>と人工脂質二分子膜をハイブリッドしたフラーレン脂質は、両者の基本的特性を合わせ持つ。我々はすでに、三本鎖型フラーレン脂質(1、鎖長16)が示差走査熱量分析(DSC)測定において35.2℃と47.0℃に2つの吸熱ピークを示し、これらがそれぞれアルキル鎖のトランス-ゴーシュコンホメーション変化に由来する相転移(脂質の結晶相から液晶相への転移)とフラーレン部位の電子的相互作用の変化に起因する転移であることをFT-IRおよびUV-vis吸収スペクトルの温度依存性測定により明らかとしている。本研究では、二種類の鎖長の異なる三本鎖型フラーレン脂質(鎖長14(2)、12(3))を新たに合成し、それらの膜挙動を検討した。 合成は既知の方法で行い、^1H-NMR、FT-IR、元素分析、MSにより同定した。DSC測定の結果、興味深いことに2は57.0℃、3は52.5℃にそれぞれただ1つの吸熱ピークを示した。また、FT-IRスペクトルの温度依存性(V_<as>CH_2,v_sCH_2)は両者とも観測されなかった。24℃における2および3のv_<as>CH_2,v_sCH_2はそれぞれ2925.2、2854.3と2923.6、2852.3cm^<-1>であり、これらの波数はアルキル鎖のゴーシュ構造に帰属できる。これは、2および3が室温ですでに液晶相であることを示す。これに対し、2および3の吸収スペクトルは、DSCで観測された吸熱ピークの温度付近に極大吸収波長の短波長シフトが観測された。これは、フラーレン部位間の電子的相互作用が変化したことを示唆する。アルキル鎖の転移温度が低くなっているにも関わらずフラーレン部位の転移温度があまり変化しないのは、非常に興味深い。これらの結果より、2および3のキャストフィルムは脂質部位とフラーレン部位でミクロ相分離した膜構造を形成していることが分かった。
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