本年度では、昨年度末にアルゴンを用いて開発された衝撃波後方の電子励起温度の測定方法を、実際の観測対象である窒素原子に応用して、強い衝撃波後方の非平衡領域の窒素原子の電子励起温度を測定した。また、昨年度に更新され、精度が向上した輻射解析コードSPRADIANを用いて、衝撃波直後の領域に観測される窒素分子及び窒素分子イオンのスペクトルにフィッティングを行うことにより、分子の振動温度と回転温度を決定する計測方法を開発した。この方法を用いて、極めて強い熱的化学的非平衡が観測される秒速12kmの速い衝撃波と、比較的熱平衡に近い秒速8kmの衝撃波について実験を行い、衝撃波背後の各温度の分布を決定した。実験結果からは、これまで並進温度と極めて急速に緩和すると思われていた分子の回転温度が並進温度と著しく異なるという「回転温度非平衡」が速い衝撃波については特に顕著に、遅い衝撃波についても明らかに観測された。また雰囲気ガス中に含まれる水蒸気が解離して生じる水素原子のβ線のシュタルク線広がりに理論的に予想される数値スペクトルをフィットさせることにより電子密度を決定する手法を開発し、速い衝撃波について衝撃波後方の電子密度分布を測定した。これらの実験結果は、遅い衝撃波については従来より良く用いられているパークの熱化学モデルによる計算結果と比較的一致するものの、速い衝撃波については、回転温度、電子密度の絶対値が定性的にも定量的にも矛盾することが分かった。そこで新たに数値モデルとして、回転温度非平衡を考慮し、CRVDモデルと呼ばれる解離反応とエネルギー緩和の結合モデルを開発し、計算を行ったところ、定性的には回転非平衡が説明できることが分かったが、定量的な一致を捲るまでには至らなかった。電子密度については、従来の電離モデルで説明することが不可能であり、今後、回転非平衡現象と併せて、定量的に一致するモデルの開発を行う必要があると考えられる。
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