研究概要 |
平成10年度は,モルタルと岩盤破砕面の樹脂レプリカを用いて,その隙間(以後,き裂と呼ぶ)を流れる流体の挙動を,室内実験により観察した.その結果,き裂内を流れる流体の挙動は,面状に流れる領域と線状に流れる領域に大別され,時間とともに面状に流れる領域が縮小することが認められた. これより,平成11年度においては,この現象を基にき裂内の流体の挙動を定式化し再現するため,数値解析を行った.き裂を流れる流体の基礎方程式をこれまで一般的に用いられてきたダルシー則と質量保存則の2つの法則に加え,エネルギー保存則を導入した.これは,き裂内の流体に与える外部からのエネルギーを「流体の圧力エネルギー」,「き裂内を移動する流体の運動エネルギー」,「破砕面から岩盤内部に浸透するための運動エネルギー」,「流体の圧力エネルギーによってき裂が開口する運動エネルギー」および「その他熱エネルギー」の総和によって表し,これらのエネルギーは保存されるというものである.本研究においては,このうち,「き裂を開口させるための運動エネルギー」および「その他熱エネルギー」を0とおいて基礎方程式を構成し,差分法による数値解析を行った.これより,き裂内の流体の挙動は,その周辺岩盤の地下水の存在によって大きく異なることが認められた.つまり,き裂内に人工的に与えた水圧によって流体を流す場合,時間とともにき裂内から岩盤への流体の浸透割合が小さくなり,最終的には岩盤内には浸透せずき裂内のみの流れとなることが認められた.この解析結果と平成10年度に行った透水実験の結果を検討すると,き裂内の流体の挙動はエネルギー保存則に従っていると考えられ,き裂内の圧力エネルギーと水頭によるき裂表面への圧力エネルギーが釣り合っていない場合,き裂内には面状の流れ領域が現れ,釣り合うとともに線状の流れに変化すると言え,この現象を数値解析によって表現できた.
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