研究概要 |
これまでの研究から,イネの最終粒重が大きい品種ほど穀粒生長速度(GGR)は速く,胚乳細胞数,胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度も大きくなった.胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度は,基質である胚乳中の糖濃度との相関がなかったので,胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度と胚乳中のデンプン合成に関連する酵素活性との関係を本研究で調査した. 粒重の異なる7品種を用い,分げつ除去土耕栽培し,出穂期以降昼24℃夜19℃のファイトトロンに移動した.籾殻を透かして穎果が籾殻を埋め尽くした日から,0,2,4,6,8,10日後に強勢な穎果をサンプルした.これらについて,生体重,乾物重,糖濃度,酵素活性を測定し,完熟時のサンプルから胚乳細胞数を算出した.デンプン合成に関連する酵素として,スクロース合成酵素(SuS),ADP-グルコースピロホスホリラーゼ(ADPGPP),可溶性デンプン合成酵素(sStS),不溶性デンプン合成酵素(bStS)の酵素活性を測定した. SuSでは,1粒当たりの活性には有意な品種間差があったが,生体重当たりの活性と胚乳細胞当たりの活性には有意な品種間差がなかった.また胚乳中の糖濃度にも有意な品種間差がなかったことから,胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度にSuS活性は影響を与えていないことが示唆された.ADPGPP,sStS,bStSでは,1粒当たりの活性,生体重当たりの活性,胚乳細胞当たりの活性の全てに有意な品種間差があった.生体重当たりの活性とGGR,胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度との間では,ADPGPP,sStS,bStSそれぞれに有意な相関があった.しかし胚乳細胞当たりの活性では,胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度と有意な相関があったのは,ADPGPPだけであった. 以上,胚乳細胞当たりの活性を検討することにより,ADPGPPが胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度に影響を与えている可能性が示唆された.
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