前年度の科学研究費補助金(奨励A)による研究で、温度および土壌湿度が多雌ずい花の発生に及ぼす影響について、それぞれ個別に調査を行った。本年度は、これらの要因の相互作用を調べるとともに、植物ホルモンと多雌ずい形成との関係についても調査を行った。 まず、多雌すい花の発生に対する温度環境および土壌湿度の相互作用を調査するため、甘果オウトウ‘佐藤錦'を用いて、7月20日から9月13日まで人工気象室による環境制御下での処理を行った。処理区には温度(高温区:昼温35℃/夜温25℃、低温区:25℃/15℃)と土壌湿度(乾燥区:pF≦2.5、湿潤区:pF≦1.8)を組み合わせで4区を設けた。低温区では高温区よりも雌ずい分化が10日ほど早く始まった。多雌ずい花は、低温区では両土壌湿度区とも全く発生が認められなかったのに対し、高温区では土壌乾燥区で70%、湿潤区で80%以上の発生が認められた。 これらのことから、低温条件下では、植物体の水分状態に関係なく多雌ずい花の発生は完全に抑制されることが確認された。一方、高温条件下では、植物体の水分状態に関係なく多雌ずい花の発生頻度が著しく高まることが明らかになった。 次に、植物ホルモンと多雌ずい形成との関係を探るために、短果枝毎に、ナフタレン酢酸(IAA)、アブシジン酸(ABA)、ジベレリンA_3(GA_3)、6-べンジルアデニン(BA)、エスレル(C_2H_4)、バクロブトラゾール(PBZ)の噴霧処理を行った。多雌ずい花は、対照区では4%発生しており、ABA、C2H4、PBZ区では対照区と同様の多雌ずい花率を示したが、BA区では多雌ずい花の発生率が著しく高くなり、100ppm区で29%、200ppm区で36%くなった。このことから、多雌ずい形成に対するサイトカイニンの関与が示唆された。
|