研究概要 |
高等植物における様々な環境要因によるストレスは、細胞中で発生した活性酸素が原因となる。その為、細胞内における活性酸素の消去が、ストレス耐性機構に大きく関わると考えられる。こうしたストレスに対する植物側の防御系の中心が、一連の活性酸素消去系酵素群である。活性酸素消去の初発反応を触媒するスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は、含有金属の違いにより三種のアイソザイム(Cu/Zn-,Mn-,Fe-)に分類される。これまでに未単離のFe-SODを加え、イネのSODアイソザイムcDNAを全て取得したので、イネ芽生えにストレス(塩、乾燥、低温)処理を行い、各SOD遺伝子の発現応答を調査し、酸化ストレスによるシグナル伝達経路を明確にすることを目的とした。 塩および乾燥処理により、Mn-SOD遺伝子(SodA)と2種の細胞質型Cu/Zn-SOD遺伝子(SodCc1,SodCc2)のうちSodCc2が強く誘導された。また、SodAとSodCc2は、植物ホルモンの一種であり、環境ストレスのシグナル因子としても機能するアブシジン酸(ABA)により強く誘導された。これら遺伝子のプロモーター領域にはABAが介在するシグナル伝達系のコンセンサス配列が存在するが、SodAにはMYB,MYC結合部位が、SodCc2には複数のABA応答配列が存在することから、両遺伝子はABAの介在する異なるシグナル伝達系により発現制御を受けていると考えられる。一方、葉緑体型Cu/Zn-SOD遺伝子(SodCp)は光照射下の塩処理で短時間で発現誘導を受けた。葉緑体では、塩処理により活性酸素種の量が増加することがすることが知られており、過酸化水素とO^<2->発生剤であるパラコートで処理したところ、特に過酸化水素処理において強い発現誘導が観察された。SodCpの発現制御に活性酸素種が関与していることが明らかになった。
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