研究概要 |
1,10-ピレンジカルボキシイミド基を有する遠隔位不斉誘導体化試薬の合成とその評価について検討を行った。既に前年度までに確立した方法により重要な試薬合成原料となる1,10-ピレンジカルボン酸無水物を合成し、光学的に純粋な1-アミノ-2-プロパノール、及び2-アミノ-1-プロパノールとそれぞれ反応させイミド体とすることによって誘導体化試薬1Py2P-OH及び2Py1P-OHを合成した。これらの試薬の不斉識別能を評価するため、ナプロキセン、イブプロフェン、ケトプロフェン、及び2位から6位にメチル基とエチル基からなる不斉を有する光学活性分岐脂肪酸を用いエステル誘導体に導いた後、ODSカラムを用いたHPLC法によりジアステレオマー誘導体の分離特性について検討を行った。また、芳香環の効果を評価する目的で、2,3-アントラセンジカルボキシイミド、2,3-ナフタレンジカルボキシイミド、及びフタルイミド型試薬も合成した。その結果、ナプロキセン、イブプロフェン、及びケトプロフェンではいずれも分離度2以上が得られ、特に1Py2P-OHでは分離度4.8以上と非常に高い識別能が得られた。また、メチル分岐を有する分岐脂肪酸の分析結果では2Py1P-OHを用いた場合の5-メチルヘプタン酸を除き2本のピークに分離することができた。芳香性イミド基の効果を比較した結果、3〜6位の不斉識別では、他に比較し高い不斉識別能を示す傾向が認められた。しかし、更に遠隔位の不斉識別ではアントラセン型試薬の方が有効であった。そこで、アントラセン型試薬を用い、更に遠隔位の不斉の識別能について検討した結果、-40℃で分離することにより、少なくとも12位までのメチル基とエチル基からなる不斉を識別することができ、従来、殆ど不可能であった遠隔位の不斉識別を高感度で行うことを可能とした。
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