研究概要 |
本研究の目的は,人間活動に由来する湖,河川そしての沿岸海域などの水域への過剰な炭素,窒素およびリン(C,N,P)の負荷を,本来環境中に存在する細菌群集を積極的に利用して軽減することであり,そのために,本来環境中で優占しているものの従来の培養法では検出・分離できない低栄養細菌の動態を調べる。平成10年度は,富栄養化の進行により,夏季に頻繁に貧酸素水塊を形成し,底層の生物群集や沿岸養殖業および漁業に多大な被害が生じる兵庫県播磨灘を調査海域とし,設定した定点の表層水,中層水(10m)および底層水を毎週採取した。海水試水をそのままろ過滅菌して調製した培地〈iSW培地)を用いてその場で優占していると思われる低栄養細菌をMPN計数した。その際,iSW培地にC源として微量のグルコースを添加した培地(C培地)とC培地に微量の無機N源とP源を添加した培地(CPN培地)を作製し,低栄養細菌のMPN計数値を比較した。さらに,表層,中層および底層の海水試水の細菌粒子画分をろ過捕集し,そこから抽出したDNAをテンプレートにして16S rRNA遺伝子をPCR増幅し,その遺伝子断片を大腸菌にクローニングすることでもとの試水中の細菌群集の組成を遺伝的に比較した。得られた結果は以下のとおり。 1) 貧酸素水塊が発生した底層水で,表層水と比較して極めて高い無機態のN源およびP源が存在した。その際,三種の培地で計数した低栄養細菌数を表層水,中層水および底層水で比較すると,表層水と中層水ではCPN培地での計数値がiSW培地でのそれより高かったのに対し,底層水では両培地での計数値にそれほど差がなかった。このことは,栄養塩が不足している表・中層水の低栄養細菌群集が栄養塩が豊富な底層水のそれとは異なっていること,前者は栄養塩の負荷に対して速やかに対応して増殖するの者はそうではないことが明らかになった。 2) 試水中の細菌粒子から直接PCR増幅し,大腸菌にクローニングした16S rRNA遺伝子の多様性を比較したところ,表層および中層の組成は底層のそれとは大きく異なり,遺伝子レベルでも貧酸素水塊が発生して栄養塩濃度が大きく変化した水塊中では,細菌群集組成も変化することが明らかになった。
|