研究概要 |
本研究では,シロウオの卵巣卵の成熟過程と,成熟誘導要因の解明を目的とした. 1997年4月に孵化した仔魚を海水中で飼育し,定期的に卵巣卵を組織学的に観察した.1998年1月まで飼育魚の卵巣卵は周辺仁期であり,卵黄の蓄積は見られなかった.2月になると卵黄蓄積が開始されたが,本種の場合,卵黄球は直ちに融合し,植物極側で卵黄塊を形成し始めた.ブアン固定・H・E染色で非染色の小顆粒が多数観察され,このうちのいくつかは,Allen液固定・PAS陽性を示したことから表層胞と考えられた.この段階は通常の魚類では表層胞期(卵黄胞期)にあたるが,本種では核がすでに移動を開始していることから表層胞期と卵黄球期が欠落し,核移動期となると考えられた.この状態は4月まで続くが,4月には核が著しく扁平し,卵黄塊は卵巣卵のほぼ全域を占め,卵表面でのみ卵黄球が確認できた. 次に1997年および1998年4〜5月に遡上したシロウオに営巣させ,定期的に巣内から営巣個体を抽出し,卵巣卵を摘出後24時間培養し,培養液中に分泌されたステロイドホルモンを酵素免疫測定法で測定した.営巣前から産卵直前まで卵巣卵は核移動期であるが,卵径は増大し,含水率は一定であった.営巣前に抽出した10個体のGSIは0.16〜0.25であり,1卵巣から24時間に分泌されたestradiol-17β(以下e2)は31.3〜354.5ngであったが,17α,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one(以下diOH-p)は検出されなかった.営巣開始から5日目に抽出した10個体ではGSIが0.43〜0.82と高く,分泌されたe2は16.9〜623.5ng/卵巣/dayであり,その内2個体ではdiOH-pを1.1,1.5ng/卵巣/day分泌していた.10日目と12日目では産卵個体が認められ,GSIは0.71〜1.68と高かった.10日目では10個体中7個体でd1OH-pを2.8〜13.2ng/卵巣/day分泌した.12日目では10個体全てでdiOH-pが3.4〜32.9ng/卵巣/day分泌していた.e2は10日以後でも33.9〜404.4ng/卵巣/day分泌しており,本種では卵黄蓄積が産卵直前まで進行し,diOH-pが最終成熟を誘起すると考えられた.
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