研究概要 |
魚類筋肉のコラーゲンは,筋肉の物性を支える主要な因子として,食品学上非常に重要な位置を占めている。魚類筋肉の場合,魚種により筋肉の物性が異なるだけでなく,冷蔵中の物性の変化速度もまた魚種により異なる。コラーゲン分子のにテロペプチド領域は冷蔵中の筋肉の物性の変化に大きく関与しているとされており,特異的な酵素により分解され,筋肉の軟化の原因となっている可能性がある。そこで今回は,生化学的,かつ食品学的にも興味ある知見が期待されるコラーゲン分子のテロペプチド領域に関して,食品学上の基礎的知見を得ることを目的として本研究を計画した。 ・コラーゲン分子からのテロペプチド領域の分離 代表的な流通魚であるハマチ,マダイ,ヒラメの筋肉より,0.1M NaOHによりコラーゲンを抽出,続いて0.5M酢酸により,テロペプチド領域をもつ酸可溶性コラーゲンを抽出し,続いて現在までに報告されている方法に基いてI型コラーゲンのサブユニットであるα1およびα2鎖を各種クロマトグラフィーにより分離・精製した。 ・テロペプチド領域のアミノ酸配列の解析 分取したα1鎖をPVDF膜に転写し,アミノ酸シーケンサーによりアミノ酸配列の解析を行った結果,配列を全く読むことができなかった。この場合にはN末端がブロックされていることが予想されたため,各種デブロッキング法を試みたが,やはり解析不能であった。しかしV8プロテアーゼによる限定分解を行ったものでは一部に解析可能なペプチドが認められたため,この方法を応用すれば将来的には配列の解析は可能であると思われた。 ・α1鎖に対するポリクローナル抗体の作製 α1鎖を皮下注射によりウサギに免疫し抗α1鎖血清を得た。ウエスタンブロッティング法により特異性を確認したところ,わずかではあるがα2鎖にも反応が認められたため,今後はアフィニティークロマトグラフィーによる抗体の精製を行う予定である。 ・ポリクローナル抗体によるコラーゲン分解産物の検出 ハマチについて,即殺直後・死後1日・3日において抽出したコラーゲンに対して,上記において得られた抗体を用いてウエスタンブロッテイングを行った。その結果,α鎖よりも低分子の領域においてかすかな反応が認められたため,α1鎖に何らかの分解が生じていることが示唆された。
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