研究概要 |
商品先物市場における価格変動性(ボラティリティ)の変動要因を分析するために,東京穀物商品取引所(TGE)の米国産大豆先物市場を対象として,そこで生じるボラティリティ変動とシカゴ商品取引所(CBT)に集約される情報との関係について分析した.具体的な分析手順は以下の通りである. 第一に,価格変動リスクの指標であるボラティリティの変動を記述するEGARCHモデルを取り上げ,従来主張されてきた収益率の分布に関する分散不均一混合分布モデル(HMM)と整合的であることを示した.HMMに基づけば,市場にもたらされる新たな情報の量がボラティリティ変動の要因となりうることが示されている. 第二に,CBTとTGEの取引時間の関係から,TGEの夜間収益率を分析対象として選択した.基本統計量の分析では,TGEのボラティリティは時間とともに変動している可能性があり,HMMに基づいた分析の有用性が認められた. 第三に,実証分析では,TGEのボラティリティ変動は,CBTに集約される情報の代理変数である出来高や,曜日ごとに発生する情報の量と正の相関を持つことが明らかになり,TGE大豆先物価格の収益率はHMMによって説明できることが支持されている.また,ボラティリティ変動においては,新たな情報の影響が直ちに反映されていない可能性も示唆されている. また,本研究に残された課題として次の点が考えられる.本研究の分析枠組みは先物価格が示現する統計的特質に重点を置いているため,出来高の形成メカニズムについては,ほとんど触れられていない.出来高の形成は市場参加者の売買行為に基づくものなので,そのメカニズムを解明していくには,より具体的な経済主体を想定した分析手法が求められる.また,日本国内における需給動向や取引所による市場運営策についても,モデル化されることが望まれる.
|