研究概要 |
富山県富山市に位置する呉羽射水山ろく地区では、水田転換樹園地(梨園)の畑地灌漑が計画されている。北陸における畑地灌漑では、過湿にならないように土壌水分のコントロールが必要であり、当地区では畑地灌漑に先駆けて暗渠が施工されている。本研究では、集水面積1.1haの樹園地を対象に圃場内の土壌水分ポテンシャルと暗渠流出量の経時観測を行い、暗渠による排水効果を評価した。 土壌水分ポテンシャルの1991年から1998年までの経時変化を調べてみると、湿潤状態だった圃場が暗渠施工初年度から乾燥状態になり、連続干天日数が長くなるときには、地面下60cm深であっても土壌の吸引ポテンシャルがPF2.6にまで達するという傾向が4,5年間続くことがわかった。暗渠施工後、それ以上の年月が経つと、60cm深ではPF2,3までと若干乾燥の度合いが低下したように見受けられる。しかしながら、20cm深、40cm深では、ほぼ降水パターンに対応する乾湿状態を示しており、暗渠の排水効果が継続しているものと評価した。 ただ、土壌水分ポテンシャルを経年的に比較する場合には、それぞれの年の降雨パターンが異なることから、一概に定量評価を行うことが難しい。そこで、実際に、降水量の何割が暗渠で排水されるのかについて、比較的水収支の取りやすい洪水時を対象に流出率を計算し、暗渠による排水効果の評価を行ってみた。洪水については降水量25mm以上の期間を水収支の対象期間として選定した。暗渠からの排水量データには1991年から1998年の8年分を1時間単位で用い、降水量は圃場近傍で観測したデータを同じく1時間単位で用いた。ここで得られた出水事例は46例であった。単純に流出率だけを調べてみると、出水事例によって流出率が0.1-0.9に至るまで大きくバラツキを示す。原因としては、圃場の乾湿状態や降雨強度の違いが影響しているものと考えられる。そこで、流出率と初期流量(降雨直前暗渠排水量)との関係を求めてみた。初期流量を圃場の乾湿状態を表す1つの指標であるとすれば、乾燥状態では流出率が低く、湿潤状態では流出率が指数関数的に高くなる傾向を見いだせた。さらに、降雨強度の違いが流出率に与える影響についても調べてみたところ、初期流量をカテゴリー化すると降雨強度の増加に伴い流出率が増加するという傾向を見いだすことができた。 以上の結果は、暗渠の排水効果が継続していることを示しているだけでなく、圃場よりも下流域における水利用を考えた場合、流出量の予測が可能であることも示唆している。
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