研究概要 |
海外から導入された寒地型イネ科牧草ベレニアルライグラスについて,日本での育種過程における遺伝的多様性の変化を明らかにするために,日本とヨーロッパ(ドイツとフランス)のエコタイプおよび栽培品種を用いて,アイソザイム分析およびRAPD分析を行った。 アイソザイム分析では,5遺伝子座を用いて日本とヨーロッパから収集したエコタイプの遺伝的多様性を比較した。日本とヨーロッパの集団間に差異は認められなかったが,この結果は解析可能な遺伝子座の数が少なかったことに大きく起因していると考えられた。 そこで,RAPD分析では,8種類のランダムプライマーを用い,50個のDNA断片(50遺伝子座を仮定)の有無から遺伝的多様性を評価した。その結果,日本のエコタイプはドイツとフランスのエコタイプより遺伝的多様性が低く,遺伝的分化の程度も小さいことが示された。 品種育成の過程における遺伝的多様性の変化を調べるために,日本で育成された4倍体合成品種「ヤツボク」とその主な育種母材となった「Barvestra」(オランダで育成)の遺伝的多様性を,RAPD分析により評価した。「ヤツボク」の構成栄養系は8個で,そのうち6栄養系が「Barvestra」である。「Barvestra」からの栄養系選抜の過程で遺伝的多様性(品種内変異)は大きく減少した。その後,合成一代,合成二代と育種が進むにつれて多様性は増加したが,「Barvestra」の多様性のレベルには達しなかった。これらの結果から,「ヤツボク」の育成過程で急激な個体数の減少によるボトルネック効果がはたらいたことが示唆された。 これら中立的な遺伝的多様性の変化とともに,草丈などの農業形質に関する品種内変異の変化も観察された。牧草の合成品種育成過程では,構成栄養系の減少によるボトルネック効果と農業形質に関する選抜効果が働いている可能性が高いことを示した。
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