本研究は平成8年度文部省科学研究費補助金を得て開始されたもので、前年度までに細胞の分離・培養条件をほぼ確立し、細胞の分化機能を観察するためのポリクローナル抗体も調製した。昨年度の時点では分離した乳腺細胞の培養はプラスチックシャーレ上で行なっており、RT-PCRによってカゼインの発現が窺われたもののウエスタンブロットではその発現が検出できなかった。 今年度はまず乳腺細胞の分化により好適といわれているコラーゲン・ゲルを用いる浮遊培養法に改変し、カゼインの発現を詳細に明らかにしようとした。無血清培地にインシュリン、コルチゾール、プロラクチン等の因子を様々に組み合わせて観察した結果、インシュリンの単独添加でもカゼインの発現が認められることがRT-PCRとウエスタンブロットによって明らかになった。他の動物種由来の乳腺細胞のカゼイン発現に必須であると考えられているプロラクチンを添加してもカゼインの発現は増強されなかった。このことから培養したブタ乳腺上皮細胞はin vitroにおいてなお、カゼインの合成能を有していること、そしてそれはこれまで明かにされてきたプロラクチンとは異なる系が関与していることが示唆された。さらに、本研究は遺伝子導入による分化機能を維持した乳腺細胞の株化を目的としていることから、pSVneoを6種類のリポフェクトアミンによって培養した乳腺細胞に導入し長期間G418存在下で細胞が生存しうるかどうかを検討した。その結果、どのリポフェクトアミンを用いた場合からも長期間安定にベクターが機能する細胞を得るまでには至らなかった。使用するブタの履歴を特定化することや遺伝子を導入する方法を再検討することなどが今後の課題である。
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