研究概要 |
本年度は、新しく多包条虫成虫排泄分泌(ES)抗原に対するマウスモノクローナル抗体(mAbs)を作製し、糞便内抗原検出法へ利用した。 mAbsは9種(Em a-Emi)得られ、Em a、hおよびiの3種はIgG1抗体、Em b-gの6種はIgM抗体であった。多種寄生虫抗原との反応性を調べた結果、3つのグループに分けられ(Em a,Em b-g,Em hとi)、Em hとiは多包条虫成虫および成虫ES抗原とのみ強く反応した。ウエスタンブロッティングはどのmAbsもES抗原とスメア状の反応を示し、多包条虫成虫切片の免疫染色ではmAbs(Em a,c,i)はいずれも成虫テグメントおよび虫体周囲の宿主腸管上皮と反応した。これらの反応が抗原の過ヨウ素酸処理によって喪失したことからmAbsの認識抗原が糖であることが示唆された。 そこでEm iおよびES抗原に対するポリクローナル抗体(rAb)を用いたサンドイッチELISA法により糞便内抗原の検出を試みたが、感度の低さが問題となった。感度向上のためにアビジン・ビオチン化酵素複合体法を用い、吸着抗体にrAb、一次抗体にEm i、二次抗体にビオチン化anti-mouse IgG(rAb/Em i/b-AntiM)および吸着抗体にEm i、一次抗体に現法で用いられているビオチン化EmA9を用いる検出系を選択した。 検出抗原は熱やホルマリンに対して安定であり、1%ホルマリン、熱処理を施して多包条虫卵を失活させたキツネ剖検材料を用いて各系を比較した。rAb/Em i/b-AntiM検出系と現法(rAb/b-EmA9)は同様の陽性検出率を示し、さらにEm iを用いた新しい検出系はいずれも現法で反応のみられる胞状条虫感染犬糞便とは反応せず、特異性に優れていた。いずれの検出系も単包条虫やフォーゲル包条虫感染動物の糞便内抗原の検出が可能で、他のエキノコックスの終宿主診断にも応用できることが示された。
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