研究概要 |
初乳を産生すると考えられる妊娠末期乳腺、特に乳腺上皮細胞質内抗原を認識する単クローン抗体を作製し、その抗体が認識する抗原の分布領域を検索した。さらに、その抗体の中で神経細胞を認識する抗体を確立し、認識抗原の特性を検討した。 Wistar系ラットを交配し、妊娠18日目または20日目に灌流、脱血後、乳腺を採取した。0.1%SDSを含むPBSでホモゲネートし、10,000×g、4℃、60分間遠心分離した上清を免疫抗原とした。Balb/cマウスに免疫抗原液を完全アジュバンド、不完全アジュバンド、抗原液のみ、というように数回免疫した後、免疫マウスの抗体価を測定し、抗体価の上昇したマウスの脾臓細胞を無菌的に採取、単離し、脾臓細胞とミエローマ(NS-1)をポリエチレングリコールにより細胞融合した。その後、ELISA法により抗体価を確認しながら単クローン抗体産生細胞(hybridoma)を作出した。この結果、数種類の抗体産生細胞が得られ、泌乳2日目ラットの乳腺凍結切片を用い免疫組織化学により検索し、乳腺上皮細胞内抗原を認識する抗体(MG2E7)を得た。成熟ラット臓器中にMG2E7が認識する抗原をウエスタンブロット法により検索したところ、乳腺の他、大脳皮質、小脳、骨格筋にその存在(分子量約55kDa)が確認された。さらに、ラット新生仔神経細胞初代培養系を用い、neuron specific enolaseとMG2E7を併用し免疫細胞化学を行なったところ、同一細胞種(neuron)を認識し、グリア細胞にその発現は認められなかった。また、アイソタイピングにより、MG2E7はIgM(κ)であることが確認された。 以上の事から、乳腺上皮細胞(乳汁)由来の物質が乳仔発育期の中枢神経系(neuron)に対し重要な影響を及ぼしている可能性が示唆された。また、今回得られたMG2E7の特性から、中枢神経系の発達のみならず高次脳機能に関する研究においても有用と考えられる。
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