研究概要 |
先天性胆道閉鎖症に対して肝門部空腸吻合術を施行された後、繰り返す胆管炎や胆汁性肝硬変症による食道静脈瘤からの出血を来す症例は、近年生体肝移植の適応となってきている。このような病態に対して東京大学医学部附属病院では、10数例の生体肝移植が行われた。本研究では9例の生体肝移植例を対称とし検討したところ、4例に肝門部に大きな過形成性の腫瘤が認められた。過形成性腫瘤の認められなかった症例は、生後10か月の乳児が3例、生後12か月が1例、生後20か月が1例であった。一方過形成性腫瘤の認められた症例は7歳、8歳、14歳、18歳であった。肝門部空腸吻合術はおおむね生後2か月以内に施行されることが多いことを考慮すると、術後の年月が長い症例にのみ、過形成性腫瘤が発生していることが明らかになった。 前年度までの研究で、この腫瘤は過形成性であることが示唆されており、周囲の胆汁性肝硬変症と比べ門脈血流が多く供給されていることが分かった。血流の不均等分布によって生じるとされている非腫瘍性の病変には、Focal nodu1ar hyperplasia(FNH),Nodular regenerative hyperplasia(NRH),Partial nodular transformation(PNT)などが知られているが、この中でFNHについては女性例でのX-chromosomeに存在しているHuman androgen receptor gene(HUMARA)を用いて、結節のmonoclonalityを検索したという報告がある。これを本研究の3例の女性例の腫瘤について検討した結果、本腫瘤はmonoclonalityの性格を有していなかった。 2年間の研究を総合すると、本腫瘤は腫瘍性の病変ではなく、胆汁性肝硬変症が完成される過程で、肝門部に門脈血流が多く供給される部分が過形成の変化を示し、肝機能を保つ要因になっていることが示された。
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