研究概要 |
胸腺癌上皮細胞表面には通常Tリンパ球表面に存在し、Bリンパ球表面上のCD72との相互作用によって互いに増殖シグナルを伝達しあう特異なレセプター様蛋白CD5が強く発現している。胸腺癌以外の胸腺上皮性腫瘍(胸腺腫・胸腺カルチノイド)および他臓器の扁平上皮癌・腺癌にはCD5は認められず、上皮性腫瘍におけるCD5の発現は胸腺癌に限られている。 昨年度は胸腺癌症例で強く発現しているCD5分子そのものの塩基配列解析を施行した。対象は胸腺上皮性腫瘍32例で、内訳は胸腺癌9例、異型胸腺腫3例、胸腺腫18例、ほか3例である。-80℃に凍結保存した腫瘍組織からRNA抽出、cDNA合成し、CD5 transcriptは3つのsegmentsに分けてPCR増幅した。PCR産物は2% agarose gelで泳動、目的のbandを切出・精製し、ABI377 DNA sequencerで4つのプライマーを用いてCD5 coding regionの全長を直接シークエンスした。得られた突然変異はT-vector cloningとRFLPを追加して確認した。その結果、CD5は胸腺癌8例、異型胸腺腫3例、胸腺腫18例の全てで増幅されたが、酵素抗体法でCD5陰性であった腺癌1例と胸腺カルチノイド1例では増幅されなかった。シークエンス解析の結果、胸腺癌8例のうち1例で2箇所に1塩基置換が見出された(E289D:GAG(Glu)>GAT(Asp);A422V:GOC(Ala)>GTC(Val))が、他症例は全て野生型であった。今年度はさらにヒトCD5のゲノム構造をlong PCR,direct sequencingにより決定し、この塩基配列データを元にほかの胸腺がん症例を追加してパラフィン切片から抽出したgenomic DNAからCD5遺伝子の増幅を行い、direct sequencingにより突然変異の有無を検索した。RT-PCRで見いだされた上記の突然変異はgenomic DNAからも認められた(E289D in exon 6;A422V in exon 8)。このほかに3例の胸腺がんにそれぞれN203S(AAC(Asn)>AGC(Ser)in exon 5),P224L(CCA(Pro)>CTA(Leu)in exon 5),P224Lが見いだされている。polymorphismの可能性については現在追加検索中である。いずれもstage III to IVの浸潤がんであり、A422V以外はいずれも細胞外部分に相当する。
|