研究概要 |
本年度は、正常末梢肺組織、肺腺癌組織、扁平上皮癌組織をSCID mouseに移植して、まずその生着率を見た。腺癌組織、扁平上皮癌組織は高率(90%)に正着か得られたが、正常末梢肺組織では生着率は10%以下と低率であった。正着が得られた腫瘍組織についてp53,p21,Ki-67の免疫組織学的検討とK-ras,p53の点突然変異、3p,9p,17p上に存在する8つのmicrosatellite markersを用いたgeuetic instabilityの検討を行った。原発腫瘍と移植正着腫瘍組織での癌遺伝子産物の発現では、p53の発現率は同等の発現率を示したが、p21やKi-67は、正着した腫瘍組織での発現率が若干高かった、遺伝子変異は、原発腫瘍と移植正着腫瘍組織で、p53,K-rasの点突然変異は一致したが、microsatellite markerを用いた検討では、正着腫瘍組織での異常の頻度が若干高かった。また正着した腫瘍組織の形態学的な変化は殆ど認められなかった。正着した正常肺組織では、肺胞構造の虚脱と、線維化が目立ち、その形態の把握は困難であったが、肺胞構造が保たれている部分の肺胞上皮は、異型性は軽度で、軽度の過形成を示した。なお、実施期間中、移植に適した異型腺腫様過形成に相当する症例がなく、その移植は出来なかった。 今後、移植前の末梢肺組織前処理の改善によって、生着率の向上を図るとともに、前癌性病変の作成と、その遺伝子変異の検討を行う予定である。さらに扁平上皮癌、小細胞癌、正常気管支についても移植を行い、その形態変化、遺伝子変異の有無を検索する予定である。また非腫瘍性気管支上皮やクララ細胞を不死化した細抱株を移植し、局所での形態的変化や組織形成を経時的に観察する。
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