研究概要 |
細菌逆転写酵素は,multicopy single-stranded DNA(msDNA)と呼ばれるRNA-DNA複合体の合成に必須の酵素であり,細胞内で安定な一本鎖DNAを合成可能な唯一の系として知られている.この系を利用することによって細胞内でアンチセンスDNAなどを合成し,新たな遺伝子発現制御系を構築することが可能である.従来より用いられているアンチセンスRNAによる遺伝子発現制御系は大量のRNAを発現させる必要があり効率が悪いが,アンチセンスDNAを利用した場合は,細胞内に存在するリボヌクレアーゼHが標的mRNAを分解可能であるためアンチセンスRNAより少量で効率良い遺伝子の発現抑制を行うことができる. これまでの研究で,アンチセンスDNAを大腸菌内である程度効果的に発現することには成功しているが,実用化するためにはまだ十分な発現抑制効率であるとはいえなかった.そこで,より効率的なアンチセンス DNAを発現するベクターを開発するためにin vitroのmsDNA合成系を利用して標的mRNAとハイブリダイズしやすい鋳型構造を検索した. その結果, cDNA合成のための鋳型領域とプライマー領域を分断しても効率良くcDNAが合成されることがわかった(論文発表).さらに,この結果に基づいて鋳型とプライマーを分断した構造のベクターを構築し,大腸菌内で効率良く cDNAを合成することに成功した.このベクターから合成されるcDNAは,一本鎖領域がRNAから遊離した状態で存在しているため,アンチセンス合成用ベクターとして適している.また,アンチセンス以外にも msDNAのステム部分の二本鎖を利用した転写制御因子の吸着や三重鎖DNAなどによる発現制御系の開発も現在進行中である.
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