研究概要 |
多剤併用療法により,体内HIV量を測定限界以下に抑えることが可能となって,完全な体外排除に向けた取り組みが開始されている.免疫機能の回復を待って.その細胞を「どう教育するか」が今後の重要課題のひとつとなった.しかし,その免疫応答の対象となるepitopeは長期間変化しないだろうか.変異によってエスケープするウィルスは出現しないだろうか. 免疫応答能が対象とすべき目標として,env遺伝子産物(v3領域)と,gag遺伝子産物(p17領城)の二つを設定し,その抗原配列の安定性について,急性感染系(平成9年度),持続性感染細胞(平成10年度)のそれぞれについて.モノクローナル抗体の反応性をフローサイトメトリーによって解析するところまで終了した.使用した細胞は,T細胞株(CEM)と単球系の細胞株(U937)の2つを使用し,それぞれに,HIV-1LAI株を感染させた.感染後の経過に従い,次第に細胞表面に抗原を検出できるようになる.0.006TCID50/cellの力価のHIV-1をそれぞれの細胞に感染させた結果,CEMの方が抗原発現率が極めて多かったものの,観察した期間(CEM:13ヶ月,U937:10ヶ月)のいずれの時期にも.p17もV3と同様に,それぞれのepitopeに対し,同一のモノクローナル抗体の安定した結合がみられた.ただし,p17に比べ,V3に結合する数の方が多く,細胞外から認識しうる分子数はV3の方が多いことを示している.ただし,不完全粒子への結合が,このうちのどのくらいの割合を占めるかは,不明である.Pl7分子を認識する場合の多くが,感染粒子であろうことが推測され,p17とenv遺伝子産物への免疫応答の感染阻止効果への貢献度の算定は,完全に終了していない. モノクローナル抗体を使用した抗原発現レベルの解析から得られた.この実験事実は,多剤併用療法が成功した様な場合にみられる.HIV量が極度に減少し.ウイルスにとっては,新たなウイルス複製を起こしにくい環境下では,その抗原性に大きな変化は起こらず,免疫応答をエスケープするウイルスが存在しにくく,特定の抗原を標的として免疫応答がおこれば.よりウイルス量を低下させるのに有効であることを教える.この時期にナイーブ細胞の増殖がみられれば,複数の標的を狙った抗原刺激による免疫治療も可能になるかもしれない.
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