研究概要 |
EBVエピゾーマル・ベクターは,種々の細胞に非常に効率良く遺伝子導入/発現が可能であり、なおかつ安全性の面でも優れている。そこでこの系を遺伝子治療に応用する試みの一環として、本研究ではヒト造血幹細胞を標的細胞とし,これに外来遺伝子を導入/発現させるシステムの樹立を試みた。悪性リンパ腫等の悪性腫瘍の患者の末梢血から得たCD34陽性細胞に,アデノシン・デアミナーゼ(ADA)遺伝子発現ユニットを有するEBVエピゾーマル・ベクターをex vivoで導入した。導入後の細胞をIL-3,IL-6,SCF存在下で培養したのち解析すると,RT-PCRにより導入遺伝子特異的なmRNAの発現を,また酵素活性の測定により1,5-2.0倍のADA活性の上昇を認めた。また,導入後の細胞を造血因子を含むメチルセルロース軟寒天培地中で培養することによりCFU-cコロニーを作製し,個々のコロニーごとにRT-PCR解析をおこなったところ,37%以上のコロニー形成細胞に導入できていたことがわかった(Satoh et al.,FEBS Lett.1998)。他方、より導入効率を高めるための手段として,現在報告されているさまざまなポリマー、あるいは合成担体を、EBVベクターとカプリングさせることを試みた。カチオニック・リポソーム,あるいはHVJ-リポソームと組み合わせた系により、ヒト骨髄細胞にマーカー遺伝子を導入/発現させ得ることを,すでに昨年度に発表したが、本年度はさらにポリカチオンを担体として用いることにより、種々のヒト由来腫瘍細胞株にin vitro、およびin vivoで安全かつ効率的に遺伝子を導入できることを見い出した(Hadara et al.,Cancer Gene Therapy誌,in press;Tabata et al.,投稿中)。現在この系のCD34陽性細胞への応用を試みている。
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