研究概要 |
腸球菌のバンコマイシン耐性化は近年わが国でも問題となりつつある。本研究では1997年から1998年の2年間に札幌医科大学附属病院で分離された臨床分離株計287株(E.faecalis 226株,E.faecium52株,E.avium7株,E.durans2株)について、薬剤耐性因子の分布を調べるとともに、分子疫学的タイピング法の有用性に関する評価を行った。本研究期間内に得られた腸球菌には、バンコマイシン耐性株が見られなかったため、臨床的に重要とされる他の薬剤耐性、すなわちアミノグリコシド(AG)耐性およびペニシリン耐性について、耐性因子の分布を調査した。AG耐性の中で特に問題となるゲンタマイシン(GM)高度耐性に関与するAAC6′-APH2"遺伝子は、E.faecalisで43%と、他の腸球菌(E.faecium;5.8%、その他;0%)に比し高率に検出された。一方E.faeciumにはAAC6′Iiを持つものが87%と多く、これは他の腸球菌では検出されなかった。さらにE.faecalis,E.faeciumともに、約半数がAPH3′-III,ANT-6遺伝子を保有していた。ABPC耐性菌はE.faeciumの85%、E.faecalisの3%に見られたが、それらの株にはペニシリナーゼは検出されなかった。これらの腸球菌のABPC耐性はペニシリン結合蛋白(PBP)遺伝子の変異によることが推測され、現在解析を行っている。以上の結果から、GM高度耐性化はE.faecalis、ペニシリン耐性化はE.faeciumで進んでいることが明かとなった。分子疫学的タイピング法については、種々の方法について評価を行った結果、E.faecalisにおいて簡便かつ有用性が高いと考えられたのはArbitrarily-primed PCR法であり、調べられた226菌株は39のタイプに分類された。ただし他の菌種に対してはプライマーの設定を含めて、更なる検討が必要であると考えられた。
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