Bywatersによって50年以上も前(1941年)に報告されていた挫滅症候群は、阪神淡路大震災を契機として、その重要性が再び認識されている。しかし、Bywatersが提唱した挫滅症候群の病態へのミオグロビンの関与については、今日なお解明が進んでいない。この点に着目した私の研究は、本研究補助金を得て、昨年度には、高純度ウサギミオグロビンの抽出・精製方法の確立とその大量抽出、これを抗原とした抗ウサギミオグロビンポリクローナル抗体(ヤギ)の作製、ウサギミオグロビンと交差反応性のある市販抗ヒトミオグロビンモノクローナル抗体の特定と、大きく前進した。本年度は、これらの成果に立脚して、先ずウサギミオグロビンのエンザイムイムノアッセイを確立した。すなわち、市販抗ヒトミオグロビンモノクローナル抗体を固相抗体、抗ウサギミオグロビンポリクローナル抗体(ヤギ)を二次抗体、市販のベルオキシダーゼ標識抗ヤギIgG抗体を検出抗体とするダブルサンドイッチELISAを完成した。次いで、挫滅症候群におけるミオグロビンの毒性を実験的に調べるための基礎的検討として、健康なウサギについて血中ミオグロビン濃度を調べたところ、10〜60ng/ml程度であった。更に、昨年度抽出したウサギミオグロビンを1mg/mlの溶液に調整し、これをlmg/kgの割合でウサギに経静脈投与した後、ミオグロビン被投与ウサギの血中ミオグロビン濃度を経時的に追跡した。その結果、投与直後の血中ミオグロビン濃度は約40μg/ml(正常値の1000倍程度)に上昇していたが、その後速やか低下し、30分後には約1μg/ml、.1時間後で約500ng/mlとなり、12時間後にはほぼ正常値に復した。このことから、挫滅症候群でミオグロビンが毒性を発現するのは、更に多量のミオグロビンが血中に放出される場合か、或いはミオグロビン以外の筋肉内成分との共存下の場合であることが示唆された。
|