有機リン剤中毒の遅発毒性発症のメカニズムを明らかにし、それを予知できないかと実験を行ってきた。 今年度はトリクロルフォン(DEP)を動物実験に用いたが、DEPの動態は前年度のフェニトロチオン(MEP)とほぼ同様の傾向を示した。つまり、ラットにDEPを経口投与すると経時的に血液、諸臓器、汗中にDEPが検出されたが、その後は減少する傾向にあった。しかし、血液中にDEPが検出されなくなっても、なお脂肪組織にはDEPが高濃度検出され、同時にDEPの代謝物であるDDVPが血液から検出された。 DEPとDDVPのラットに対するLD50濃度はDEPの方が数倍高い。今回の実験でDDVPが血液中に検出されたことは、脂肪中のDEPが血液へ再溶出し、毒性の高いDDVPに代謝されたことを意味する。これは遅発毒性発症のメカニズムを示唆するデータとはなったが、汗中からはDDVPは検出できなかった。また、DEPはDDVPへと非酵素的に変化する物性があるため、抽出操作、測定の際にDDVPに変化されなかったことを確実に否定しておく必要がある。 また、ヒト症例においてDEPのデータは得られなかった。しかし、すべてのMEP中毒患者において血液中MEP濃度の最上昇がみられ脂肪中から血液へ再溶出する現象を支持するデータとなった。更に、有機リン剤の溶剤となるキシレンも遅発毒性発症に対して重要な因子の一つであることを示唆するデータも得られた。 遅発毒性発症のメカニズムは脂肪中から血液への再溶出が基本的に存在することは分かったが、予測時期の特定は摂取した化合物、量等の問題も有り今後の課題となった。
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