研究概要 |
HTLV-I感染個体内でのウィルス一次構造の多様性によるウィルス複製能、細胞遺伝子へのトランス活性化能の差が、発病や病変形成を規定する重要な要因と考えて以下の実験的検証を行った。 1.材料:現時点までに同意の得られた健常キャリア3名とHAM/TSP患者3名より末梢血単核球(PBMC)を採取した。 2.方法:DNAを抽出し、全tax-ORFをPCRにて増幅し、増幅産物を発現ベクターpCGに組み込んだ。各々の個体由来のtaxクローンを20個以上ランダムに選択し、以下の検索を行った。また、1コロニー由来のクローン化HTLV-I DNA(pMT2)より同様の方法にて得られた30クローンについても解析した。1)tax-ORF(1059bp)の全塩基配列を決定した。2)細胞培養へのトランスフェクションにより蛋白産物のHTLV-ILTRに対するトランス活性化能を評価した。 3.結果および考察:1)pMT2由来taxクローンにおける塩基置換率は1塩基当たり1.5X10^<-4>であり、すべてのクローンがトランス活性化能を保持していた。2)感染者由来のtaxクローンにおける塩基置換率はpMT2由来クローンの6倍以上であった。3)HAM/TSP患者、健常キャリア群共に特異的なコンセンサスは認めなかった。4)HAM/TSPより健常キャリア群により高度のプロウイルス多様性を認め、アミノ酸置換に伴う機能欠損クローンの頻度もキャリア群で高値であった。(HAM/TSP群18.9%v.s.キャリア群29.0%)5)根井-五條堀法にて算出した各群3名のdN/dS比もキャリアで高い傾向にあり(HAM/TSP0.23,0.48,2.64v.s.キャリア0.78,1.64,2.04)、より高い選択圧がキャリアに存在することつまり宿主免疫反応の差が両群間の多様性の違いをもたらしたと考えられた。
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