研究概要 |
平成9年度の検討にて確認したテロメア長5kb以下を示す26症例を対象として,以下の検討を行った.26症例の,末梢血単核球と大腸癌組織より,total RNAをacid guanidinium-phenol-chloroform法で調製した.次に昨年度,スプライシング異常や大きな欠失が存在しないことが確認されている,キナーゼドメイン周辺約2kbについて前述のRNAを用いて変異の有無をスクリーニングした.スクリーニングに用いた方法はRestriction Endonuclease Fingerprinting(REF)法である.まずtotal RNAから,ランダムヘキサマーをプライマーとし,逆転写酵素でcDNAを作成した.次にお互いのPCR産物がオバーラップする2組のプライマーセットを設定し,cDNAを鋳型としてPCRを施行した.その結果すべての,検体でPCR産物を得ることができた.このPCR産物が目的の遺伝子特異的であることは,直接シークエンスで確認した.このPCR産物を制限酵素Hinf 1,BamH 1,Dde 1,Mbo 1,Ase 1にてそれぞれ消化後,各断片をT4 kinaseで標識し,single strand conformation polymorphismにて異常バンドを確認した.まず26症例の末梢血単核球でREFを施行したところ1例で異常バンドを確認した.その異常バンドを分取精製後,シークエンスを行い確認したところ,アミノ酸配列の置換をともなわない多型性であることを確認した.また大腸癌組織でREFを施行したところ,前記症例以外に異常バンドの出現は確認できなかった.このことから少なくとも,テロメア長短縮を示す大腸癌にはataxia teleangiectasia遺伝子変異は伴わないことが確認された.またテロメア長が短くない症例15症例についてもREF法にて解析を加えたが,異常は確認されなかった.このことから,ヒト大腸癌発癌過程に,ataxia teleangiectasia遺伝子変異は強く関与していないことが明らかとなった.
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