研究概要 |
1. ジストロフィン遺伝子エキソン45-48のホットスポット部に欠失を有するBecker型筋ジストロフィー患者2名の生検骨格筋を用いてreverse-transcription-PCR法によりジストロフィンの筋型,脳型,プルキンエ細胞型の各分子種の発現量を検討したところ筋型,脳型,プルキンエ細胞型はいずれも正常者に比べ過剰発現していた.このことはジストロフィン異常症では骨格筋において筋型ジストロフィンの欠損を補完するために他の分子種が代償性に過剰発現していることが推察される. 2. 一方,ジストロフィン遺伝子エキソン1近傍の欠失が疑われたX-linked dilated cardiomyopathy(XLDCM)患者では筋型が検出されず,脳型,プルキンエ細胞型は過剰発現していた.この患者における遺伝子変異をinverse PCRを用いて詳細に検討した.その結果,エキソン1の5'非翻訳領域に約600塩基の挿入変異が確認された.この挿入変異はホモロジー検索よりヒトL1 elementの一部と考えられた.ヒトL1 elementはゲノム上に10^4コピー以上存在する繰り返し配列であり,通常は機能遺伝子のイントロン内に存在するため病気の原因となることは稀である.しかしながらL1 elementのエキソン内への挿入により発病したと考えられる血友病やDuchenne型筋ジストロフィー患者が報告されている.自験例ではL1 elementの挿入により筋型の転写が特異的に阻害されたものと考えられる.この挿入変異は互いに血縁関係のないXLDCM家系患者に共通して見られたことから日本人XLDCM2患者に特異的な変異である可能性がある. 3. 拡張型心筋症を有するジストロフィン異常症患者5名(Duchenne型2名,Becker型3名)において骨格筋,心筋での脳型の発現を比較検討した.いずれの患者においても脳型は骨格筋では一様に過剰発現していたが,心筋では対照との有意差を認めなかった.これはジストロフィン分子種の発現調節機構が骨格筋と心筋では異なっており,心筋では骨格筋に比べて脳型による機能的代償が起こりにくいことが予測される.
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