細胞骨格・細胞接着系の構造分子は細胞外シグナルに対応し、細胞の分化増殖に深く関わっている。自己免疫性水疱症の1つである天疱瘡の水疱形成メカニズムにおいて、カルシウム依存性シグナル伝達とホスホリパーゼCの関与、プロテインキナーゼC(PKC)各アイソザイム間の発現および活性動態の差が示されてきた。本研究は、表皮細胞の細胞骨格・接着の動体構造に関してその障害である水疱症をモデルとし、天疱瘡抗体によって惹起される細胞骨格・細胞接着系の構造分子、特にケラチンおよびデスモソーム構造分子のPKCによるリン酸化を検討し、PKCによる機能的制御機構を、基礎的細胞生物学的に解明しようとするものである。本年度は、PKCの活性化を誘導すると考えられているホルボールエステルの1つである12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate(TPA)を刺激として、ヒト有棘細胞癌由来培養DJM-1細胞におけるPKCおよびPKM(PKCの調節部分を欠いた活性部分Mキナーゼ)の局在を、PKCアイソザイム抗体を用いたウェスタンブロッティング法によって検討した。その結果、PKCαおよびηに対する抗体でPKMは検出されたが、PKCδおよびεには検出されなかった。PKMαは、細胞質、細胞膜、細胞骨格画分すべてに存在したが、PKMηは細胞質画分のみで観察された。さらにDEAE-Sephacel columnによってPKCとPKMを分離し各々の活性を測定したところ、細胞質画分において二峰性の活性がみられ、モノクローナル抗PKCa抗体を添加することにより活性の抑制がみられた。次いで、高濃度KCl不溶性画分(ケラチン画分)におけるPKCの発現とPKC活性の検討を行い、ケラチン画分でのPKCaおよびPKMa、PKCeの存在を観察した。以上より、ヒト表皮細胞において、PKMαおよびηが存在し、それらはリン酸化能を保持し、PKCおよびPKMがケラチン蛋白リン酸化制御に関与する可能性が示唆された。
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