研究概要 |
Proton MR Spectroscopy(MRS)を用いて脳内代謝物を定量化し、年齢における正常変化と精神神経発達障害や痴呆性疾患における変化とを比較検討した。Proton MRSで観察できる代謝物のうち、定量化を試みたものはNAA,totalCreatine(Cr),Choline含有物質(Cho)及びInositol(Ins)である。 (小児神経発達) 小児では乳児においてNAA,Cho,Insの著明な変化を認める。しかし2才からその変化はゆるやかとなり定量化の誤差によるばらつきも考えられ、有意差としては認めない。疾患では、器質的な変化を認めない精神運動発達遅延患児ではNAAの有意な低下を認めた。器質的な変化に乏しい疾患として自閉症があるが、その定量的な検討では、海馬を中心とした大脳辺縁系のNAAの低下と小脳半球におけるNAAの低下が認められ、かつその低下程度が症例よる相関がr=0.7程度でみとめられた。その他leukodystrophyではNAA低下以外にInsの上昇も認め、疾患に特徴的な代謝物変化を認めた。 (高齢者における加齢性変化) 成人でも部位による代謝物濃度の加齢性変化を認めた。レンズ核ではNAAの低下が年齢に相関して認められたが、前頭葉では加齢性変化ははっきりしない。しかし、Alzheimer病患者及びPick病患者では前頭葉においてもNAAの低下を認め加齢性変化と痴呆に伴う変化との区別が可能であることが示唆された。血管性痴呆患者においては正常な加齢性変化以上のNAAの低下をレンズ核に認めた。 (まとめ) NAAの代謝物濃度はMRIの画像変化以上に精神神経発達や障害に対して鋭敏でありかつ定量的な比較が可能である。その他の代謝物の変化は疾患特異的な代謝物変化を反映することがあり、臨床診断においてもproton MRSの定量評価は有用と考えられた。
|