研究概要 |
情動(うつ病)及び記憶障害(アルツハイマ・病)における共通の分子生化学的基盤としての中枢および末梢(血小板)におけるアデニル酸シクラーゼ(AC)系とホスリパーゼC(PLC)系の変化を検討し、脳病態と関連した生物学的マーカーを開発することを試みた。Ca^<2+>調節性のcAMP産生機能(死後脳研究)及びcAMP調節性の細胞内Ca^<2+>動員系機構(血小板研究)の変化を単極性うつ病患者と対照群間で比較検討した。うつ病患者死後脳の前頭葉部において,アデニル酸シクラーゼ(AC)活性の基礎活性値は低下していたが,I型ACの蛋白質量増加に帰因すると推察されるCa^<2+>調節性のcAMP産生機能の亢進が認められた。しかしcAMP情報伝達系の下流にあるcAMP response element binding protein(CREB)のリン酸化の低下が認められた。5-HT刺激性の血小板Ca^<2+>濃度の基礎値からの増加量はうつ病群で有意に増加していた。cAMP産生を賦活化するforskolin誘導体NKH477の前処置は5-HT刺激性のCa^<2+>動員を抑制したが,その抑制率はうつ病群において有意に低下していた。以上,うつ病患者の中枢・末梢両組織において両セカンドメッセンジャー系の不均衡が感情障害の病態基盤に関与していること、また血小板におけるcAMP調節性の細胞内Ca^<2+>動員系機構の変化が新たな生物学的指標として意義をもつと推察された。また記憶障害疾患であるアルツハイマー病脳においてはCa^<2+>/CaM感受性ACによるcAMP産生系の低下,とくにACの1型の量的に減少、さらにうつ病と同様にCREBリン酸化が低下していること明らかにした。以上より情動及び記憶障害においてcAMPシグナルカスケードの減弱が共通して認められた。
|