研究概要 |
精神分裂病(以下分裂病)の主要な生理学的所見である事象関連電位P300異常の解明のために、methamphetamine(MAP)とphencyclidine(PCP)を反復投与したラットから、ヒトのP300と相同の成分であるP3様電位を導出し、分裂病の生理学的な病態モデルラットを作成しその有用性の検討を試みた。また臨床的知見や動物の行動薬理学的研究から、PCPの急性投与が分裂病の有力な動物モデルの一つとされているので、その行動異常の神経学的基盤についても、移所運動量の測定と前頭前皮質のニューロン活動をを用いて検討した。 SD系雄性ラットを対象とし、定位脳手術的に一側の内側前脳束内に脳内刺激用の総極電極を、前頭皮質内に脳波記録用のネジ電極を設置した.回復後、内側前脳束刺激を報酬として2音弁別課題を学習させ、それを習得したラットを用いてMAPないしPCPを反復投与した。(MAP:4mg/kg/day,15日間、PCP:5mg/kg/day,10日間)最終投与から一週間後にP3様電位を記録し、生理食塩水反復投与後のそれと比較した。また別のラットでは、定位脳手術的に微小電極を前頭前皮質内に設置し、回復後PCP急性投与前後の移所運動量と前頭前皮質のニューロン活動を記録し、その変化を生理食塩水投与群と比較した。 MAP反復投与ラットでは、生理食塩水反復投与ラットに比べP3様電位が減衰した。PCP反復投与ラットでは、少数例のため統計学的検討には至らなかったが、生理食塩水投与群では認めない明らかな振幅減衰を認めた。いずれの場合にも課題遂行成績には変化なく、分裂病で認められる生理学的異常と類似の現象と考えられ、これらのラットが分裂病の生理学的な病態を反映した動物モデルになりうることが示唆された。 PCP急性投与ラットでは、PCP投与によって移所運動は充進し、前頭前皮質のニューロン発火も有意に増加した。PCPによる行動異常の背景に前頭前皮質のニューロン活動の変化が関与している可能性が考えられた。
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