最終年の課題として腎糸球体メサンジウム細胞におけるアポトーシスの解析を行った。培養3〜16代のメサンジウム細胞を用いて、アポトーシスはラダー形成及び細胞質内ヒストン断片化DNAをELISA法にて測定した。アポトーシスの誘導はTransforming growth factor(TGF)β_1によった。TGF β_1は、時間依存性に、用量依存性にメサンジウム細胞のアポトーシスを惹起した。10ng/ml TGFβ_1は最大176%のアポトーシスを引き起こした。TGF β II型受容体に対するアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドで前処置した細胞では、TGF β_1によるアポトーシスは完全に阻害された。また、cpp32の阻害薬であるAc-DEVP-CHOは、TGF β_1によるアポトーシスを抑制した。また、TGF β_1によるアポトーシスは1×10^<-6>Mエストラジオールで有意に抑制されたが、他のステロイドであるプロジェステロンやハイドロコルチゾンでは影響を受けなかった。TGF β_1はメサンジウム細胞で産生され、同細胞にオートクリーン・パラクリーン機序で作用する。TGF β_1の産生はいろいろな糸球体病変で亢進し、メサンジウム細胞の減少と、細胞外マトリックスの増生に関与することが知られている。本研究では、TGF β_1が細胞増殖の抑制のほかにアポトーシスを誘導して細胞の障害を引き起こすこと、更にエストロジェンがそのアポトーシスを抑えてメサンジウム細胞の障害を防止する可能性があることが示唆された。
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