研究概要 |
近年アポ蛋白E欠損マウスで著明な動脈硬化が発症することが立証され、アポ蛋白Eの重要性が注目されている。しかし、アポ蛋白E欠損のヒトにおけるリポ蛋白代謝に及ぼす影響については依然不明のままである。本研究では、安定同位体による内因性標識法を使ってアポ蛋白E欠損症患者にみられるリポ蛋白代謝異常を検討した。患者は60歳の女性で、早朝空腹時にD3-leucine、600ug/kg静注し、引き続いて12ug/kg-minで14時間持続点滴した。点滴開始時とその後10分、1、2、3、4、6、8、10、12、14、18、24、36、48、72、96、120時間に採血し、超遠心法にてVLDL,IDL,LDL,HDLを分離した。SDS-PAG法、等電点電気泳動法にてアポ蛋白B100、A-I、A-IIを分離し、アミノ酸分解後、ガスクロマトグラフ・質量分析計にてtracer/tracee ratioを求めた。さらに、代謝モデルにあてはめ代謝パラメーターを算出した。その結果、IDLの異化速度力征常の10分の1に遅延(0.8 vs 7.2 pools/day)、LDLの異化は50%上昇(0.71 vs 0.51 pools/day)、アポ蛋白A-1の産生速度は正常の2.5倍に増加(25.1 vs 10.5mg/kg-day)していることが明らかになった。以上から、高レムナント血症の原因はIDLの異化遅延によること、LDL異化促進による低LDL血症とアポ蛋白A-1合成亢進による高HDL血症が、ヒトでは動物モデルほどの顕著な動脈硬化を来さない原因と考えられた。
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