研究概要 |
全身性エリテマトーデス(SLE)などにみられる抗カルジオリピン抗体をはじめとする抗リン脂質抗体は、脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞などの血栓塞栓症や習慣流産などの原因物質と考えられているが、血栓症発症の分子機構は明らかでない。最近、aPLの対応抗原はリン脂質そのものではなく、プロトロンビンやプロテインC、プロテインS、アネキシンVなどのリン脂質結合性の血漿蛋白質であり、特に血栓症の発症頻度が高いといわれる抗カルジオリピン抗体(aCL)の真の対応抗原はβ2-glycoprotein I(β2GPI)であることが明らかにされた。我々は本年度、抗カルジオリピン抗体、すなわち抗β2GPI抗体の血栓形成における作用機序の解明を目的とし、β2GPIとその抗体の血液凝固系およびプロテインC凝固制御系に及ぼす影響を検討した。その結果、抗β2GPIモノクローナル抗体のうち、β2GPIの第IIIおよび第IVスシドメインを認識するCof-20,-21,-22がループスアンチコグラント様活性を示し、これらは固相化リン脂質へのβ2GPIの結合を促進した。こうした抗体によるリン脂質膜上でのβ2GPIのクラスタリングは、プロトロンビナーゼ複合体構成因子のリン脂質への結合を阻害してin vitroではループスアンチコアグラント様活性を示し、またほぼ同様の機構でプロテインC凝固制御系を阻害することが示唆された。さらに、in vivo血管内では内皮細胞膜上などでのクラスタリングにより、細胞膜の流動性が低下し、あるいは抗体のFc受容体を介して細胞機能に障害を与え、さらに一層のトロンビン生成を促進する可能性が考えられた。
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