赤血球と巨核球は、その形態・機能が著しく異なっているが、共通の転写因子を利用すること、両方の表現型を有する白血病細胞があること、両者にのみ分化する前駆細胞があること、などから細胞系列の観点から近縁な細胞であることが知られている。巨核球における遺伝子発現は、そのほとんどが赤血球・巨核球両方の表現型を有する細胞において解析されている。巨核球特異的な遺伝子発現を解析するには、そのような細胆株を用いた研究では不十分であり、実際の血液細胞分化を用いた解析が必要であると考え、以下の実験を行った。 巨核球特異的に発現するGlycoprotein llb(GPllb)遺伝子のプロモーターをLacZ遺伝子の上流につなぎ、マウス胚性幹細胞(ES細胞)に遺伝子導入を行った。そのES細胞をストロマ細胞株OP9上で共生培養を行い、血液細胞へと分化誘導を行う。その際に、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を添加することにより、それぞれ、赤血球、巨核球、マクロファージヘと分化誘導することが可能である。それぞれの細胞系列においてLacZ遺伝子の発現をしらべたところ、約600塩基対のプロモーターで、巨核球特異的な遺伝子発現が可能であることがわかった。種々の欠失変異を用いて解析したところ、従来報告されていたようなnegative control elementは巨核球特異的遺伝子発現には必要ではなく、約200塩基対のエンハンサーのみで必要にして十分な発現が得られることがあきらかとなった。この方法を用いることにより、トランスジェニックマウスを作製することなく、血液細胞における遺伝子発現を高効率に検討することが可能になった。
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