研究概要 |
Philadelphia転座t(9;22)(q34;q11)により形成される異常融合タンパクBCR-ABLは高いチロシンキナーゼ活性を有し、この増強されたキナーセ活性が疾患の発症と深く関わっている。本来単量体であるABLがBCR付加によって四量体形成能を獲得し自己及び細胞内伝達分子のリン酸化を誘発する。BCR-ABLと分子間相互作用する蛋白群(Grb2,Shc,Crkl,SHP-2など)により活性化されたRasがBCR-ABLの腫瘍形成能に本質的な役割を果たしていると考えられる。一方でStat3及びStat5の活性化がBCR-ABL発現細胞においても誘導され、BCR-ABLから発するシグナルは造血因子受容体の刺激伝達と多くの点で類似していることが見い出され急速に理解が進んでいる。現在までに同定されたBCR-ABL機能ドメインはBCR第ーエクソン領域内の四量体形成ドメインとGrb2結合領域を含むSH2結合領域、ABL上のSH2及びチロシンキナーゼドメイン、そしてABLの最後のエクソンによってコードされるアクチン結合ドメインである。BCR-ABL四量体形成ドメインはN末端から63個のアミノ酸は疎水基を持つアミノ酸が規則的に配列するためa-herixないしcoiled-coil楕造をとると推定される。四量体形成ドメイン欠損・変異体はRat-1細胞の形質転換能力及びサイトカイン依存性血液細胞を非依存性とする生物活性を消失していることが報告されている。我々は人工的に作製したBCR-ABL機能ドメインの欠損・変異体をレトロウイルスベクターを用いてマウスIL-3依存性細胞株NSF/N1.H7に遺伝子導入し、得られたトランスフェクタントをヌードマウスに移植することにより、BCR-ABL機能ドメイン欠損・変異体の腫瘍形成能及びシグナル伝達について検討した。造血細胞では四量体形成ドメイン欠損BCR-ABL変異体においても腫瘍形成能及びRasの活性化は保持されており、四量体形成ドメイン非依存性のRasの活性化にはShcが重要な役割を果たしている。従来行われてきた線維芽細胞を用いたBCR-ABLの生物学的特性の解析は慎重を要する。
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